パアプウロード
第四章[願い…]

その5 「アラスカに咲いた花(FORGET ME NOT)ー2」

美容室「パアプウ」元メンバー原のアラスカでのボーイフレンド、トミー小杉。
彼の欠点は酒癖が悪いという事だった。
ふだんは口数少なくただニコニコしてるようなトミーがひとたび酒が入ると止まらなくなり、しかも「バーカ、バーカ」と相手をなじる始末。
ここはアラスカ英語圏である。
トミーの「バーカ」はしかしこの地の人達に熱い火を燃えたぎらせる。
身体の小さなトミーはかなう術も無く毎回ぼこぼこにされていた。
そんな彼に原は愛想をつかすどころか優しく傷の手当てなどをした。
「もうこんな事しちゃダメよ」
原には彼が弟のような存在に思えた。
しかしトミーの方は一方的に原に思いを寄せていた。
そしてトミーは原に結婚を申し込んだ。

「少し時間をください」
原はそう言った。確かにトミーの事は嫌いでは無い。
しかしそれほど好きで無い事も事実だった。
それに何よりこのままアラスカに留まる気は無かった。
日本に帰ってまた美容師の仕事をしたかったからである。
もう一度パアプウの仲間と一緒に仕事をしたかった。
募る思いは日増しに心を痛めた。

トミーは毎日原のもとに花の鉢を届けた。
アラスカの州花でもある忘れな草を。
別れを告げる時は勇気がいる。
相手の気持ちが純粋ならばなおの事である。
原は今、その気持ちを整理する為にネナナ川のそばに居た。
そびえたつ山々から力をもらう為に。
「そう言えば…」
原はふと思い出した。
原もトミーに勧められてネナナ川アイスクラッシックを予想したのだった。
予想日は4月25日。
もう明日に迫っていた。
しかしどう見ても明日中に割れる事は無さそうだった。
「さあ〜て」
原は冷たい空気を胸一杯吸い込むとトミーと待ち合わせた喫茶「ビスカヤ」に向かった。

つづく

パアプウロード表紙に戻る