パアプウロード
第四章[願い…]


その1「ふうみんの憂うつ(1)」

ズン、ズン、ズン
夜8時30分の吉祥寺北口商店街をひとりの女性が駆け抜けようとしている。
多くの人たちはその迫力におされるか、おびえた眼で遠くから見守るしかなかった。
だが、その女性は人目を全く気にせず、何か独り言を言っているようだ。
「全くもうー、せっかくの休みなのに仕事なんて」
「全くみんな何を考えてるのかしら!」
「宮寺さんはお姉さんのいるニューヨークに遊びに行っちゃうし」
「店長は突然蒸発しちゃうし、松井さんは甥っ子が出来たとか言って長期休養体制に入っちゃうし」
「柳田さんは八王子へカブト虫の幼虫を取りに行くし堀内さんは長野へ美味しいパンの作り方を習いに行くしで」
「もうやんなっちゃう!私一人じゃ無理だって!」
そうです。周りの人の迷惑も考えずに、大きなゼスチャーを交えながら猛進しているのは、美容室「パアプウ」主任、フウミンこと近藤である。
彼女が向かっているのはライブハウス「曼陀羅」である。
そこで友達のイイヨ小川の弾き語りが行われるである。
曼陀羅の受付で聞くと、小川の出番は4番目で今3番目の「ちゃっぴぃ」が演奏しているところだという。
「ふう、間に合ったか。それにしてもちゃっぴぃって何?変な名前。バンドの名かな?」
とつぶやきながらライブハウスのドアをあけると中の音が聞こえてきた。
「傷付き羽折れた、天使でも…」

その声を聞いた瞬間、近藤は体に電気が走ったようになった。
「なんて澄んだ声!切ない声」
その声は女性のものだった。
そして薄暗いライトの中で小柄な女性が淡々としたなかにも熱い思いを歌っている姿が見えた。
ライブハウスの中には熱心なちゃっぴぃファンらしき人が大勢いてハウスの中は満員だった。
近藤は前の方に向かおうとしたのだが満員の客に押し退けられた。
仕方なく彼女は入口付近で煙草に火を付け、ステージに注目した。

「今の曲は悲しみの力と言う曲です」
曲を歌い終わり拍手が鳴り終わると一本のスポットライトが彼女をあらわにした。
しかしその時、近藤は一瞬目を疑った。
そして強引に3歩程前に進み、もう一度ステージ上の女性に眼を注いだ。

「太田さん…」

フウミンの憂うつ2に続く

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