パアプウロード
第四章[願い…]


その2「ふうみんの憂うつ(2)」

「太田さん…」
美容室「パアプウ」に勤める太田は生まれつき身体が弱く、美容室を休みがちであった。
しかし太田がカラオケを歌ってる姿さえ見た事がない近藤にとって、まるでロウソクの炎のように、内に込めた情熱を淡々と歌い上げる姿は今まで会ってきた太田とは全くの別人としか思えなかった。
「次が最後の曲です。みんな今日は来てくれてありがとう。おやすみ」
ライブハウスの中は静まり返っていた。みんな全神経を太田の放つ言葉一つ一つに集中しているようだった。
その中を太田の言葉がクリスタルで出来た蜃気楼のように漂っていた。
「ら〜サッカーボールとパンダのリボン〜、サッカーボールとカエルの卵〜、起きよう、起きよう、サッカーボールとクリスマスイヴ〜」
最後の曲「サッカーボールとクリスマスイヴ」が終わった時、いままでの静けさから一転し、大声援が鳴り響いた。
「チャッピイ!チャッピイ!」
そしてその声の多くは声にならない声、涙を流しながらの声援だった。
その時近藤は太田と同僚だと言う事とか、今日の仕事で不満があった事など全て消え去っていた。
ただ純粋にチャッピイに声援を送っていた。

その頃大歓声を耳にして出番を待っていたオオトリのイイヨ小川は白いタキシードの胸に赤いバラの花を一輪差し込みながら呟いた。
「今夜は沢山の客と出会えそうだ、ふっ」
「いざ!!」

チャッピイは右の眉の当たりをぽりぽりかくとペコリ一礼して、自分の身体よりも大きいようなギターを抱えて消えて行った。
次々と席を立つ人たち。みんなチャッピイの歌を聞いて帰る人たちだった。
そしてその群集の中に近藤も居た。
(おいおい、イイヨ小川はどうしたんだ?)
近藤は無我夢中だった。
無我夢中で裏口へ回って、太田が出てくるのを待った。

ピーポーピーポー
太田を待って5分くらいした時、近藤の目の前に救急車が止まった。
「なんだ?なんだ?」
見物人がゾロゾロと集まってくる。
ちょうど繁華街で、酔った客も多数集まってきた。
すると階段の下から担架で人が運ばれてきた。
「太田さん!」
近藤は思わず叫んだ。
「君、知り合いかね?」
救急隊の人に聞かれ、迷わず答えた。
「はい、パププウフレンドです!」
「?」

フウミンの憂うつ3に続く


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