パアプウロード
第四章[願い…]


その3 「フウミンの憂うつ(3)」

酸素マスクを付け点滴を打っている太田の手を、近藤は2時間近く握りしめていた。
その病院は静かすぎるほど静まりかえっている。
月の明かりがカーテン越しに太田の顔を青白く照らすだけだった。
その時太田が意識を取り戻そうとしていた。
「太田さん、太田さん、大丈夫?」
近藤は再び強く手を握った。
「ん〜、あっ、あれ」
薄目を開けながら太田は意識を取り戻した。
「あれ?主任ですか?あれ?なんで主任が?えっ?ここは?…あっ、そうかいつものところか…」
太田は一瞬しどろもどろしたが、またいつもの落ち着いた眠いような目に戻った。
「私は友達のイイヨ小川さんのライブを見に来たの。そしたら太田さんが歌ってて、びっくりしたわ。でも凄く良かったわよ、なんで今まで言ってくれなかったの?」
「だって〜」
太田は顔を赤らめ言った。
「知ってる人に見られるの恥ずかしいんだもん…」
「何言ってるの、もう!私達パアプウよ、パアプウフレンドよ」
「主任ありがとう。パアプウよね、パア…プ…ゥ」
少し話して疲れたのか、またすやすやと眠ってしまった。
病院の人の話だと太田は小学校を卒業するまで、この病院に出たり入ったりしてたらしい。
大人になって少し体力がついて学校にいけるようになったが、少しでも体力を使うとホルモンのバランスを崩し入院する。
そんな事の繰り返しをしてるらしい。
ギターを覚えたのも病院の医師に学生時代ギターを弾いていた五十嵐と言う人がいて、その人から教わったのだ。
夜の11時を過ぎて酒屋を営んでいる太田の両親が駆け付けた。
太田に似て病弱そうな父親と、それを支えるかのようなキップの良いと言うか体格がよい母親。
二人のやり取りに近藤は微笑ましさを感じていた。
「あんた!ちゃんとお礼を言いなさい!」
ばしっと肩を叩かれ父親はビクッと前のめりになった。
「ほんとに、ほんとにお世話様でした」
太田と同じくぺこりという感じで父親が頭を下げた。
「いえいえ、そんないいんですよ。私達、友達ですから。パアプウフレンドですから」
両親に温かいお礼の言葉を言われ、近藤は病院をあとにした。
「ふう〜」
と夜空を見上げ、ため息混じりの呼吸をした時流れ星が目の前を通った。

「どうか、太田さんの身体が良くなりますように…」
とっさに心の中で呟いた。そして目を閉じて30秒ほどしてから近藤は思い出したように大きな声をあげた。
「あっ!いっけねぇ、小川さんのライブ忘れた!」

その頃近藤のアパートのドアに黄色いスプレーで大きくこう書かれてあった。
それは誰の手による物かは明らかだったが…。

イイヨ イイヨ

フウミンの憂うつは続く…。

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