パアプウロード
第五章[願い(戦闘)]

その1 「機内にて…1」

「FORGET ME NOT,忘れな草か〜」
原はニューヨーク初東京行きの飛行機の中で足の下に置いたトミーからの贈り物を眠くなった目で見つめた。
原がトミーに別れを告げた次の日アラスカ中央部は気温が一気に10度も上昇した。
そして去年より4日早くネナナ川の氷は溶け出した。
思いがけず大金を手にした原はそのお金で日本に戻る事を決意した。
アラスカから日本への直行便はない。
原は知り合いのいるニューヨークに寄ってから日本に戻る事にした。
アラスカを出発する時トミーが空港まで見送りに来た。
あの別れの後は会った事がなかった。
トミーは白い包みを手渡した。
「これ持って行ってよ。それから俺、酒止めたからさ。原さんに認められる様がんばるよ」
そして白い歯を見せて笑った。
原は安心した。自分と別れてトミーがどうなるか心配だったからだ。
トミーから送られた物はアラスカの州花でもある忘れな草(FORGET ME NOT)だった。

ニューヨークで原は美容室「パアプウ」の同僚だった宮寺の姉の所に一週間程泊めてもらった。
彼女は目の具合もよくなりますますピアニストとして活躍していた。
ブランド物が好きな原はここニューヨークで買い物に奔走した。
そして一週間が過ぎたころやっと東京に戻る気になった。

今は機内にて眠気とちょっとした思い出に浸ってる原だった。
「僕を忘れないでか…フフフ」
原はトミーの笑顔を思い出しながら眠ろうとしていた。
が、その時アナウンスが入った。
「ただいまこの機はハイジャックされました!乗客の方は抵抗せず自分の席にいて下さい」
それは緊張感を押し隠すような淡々としたアシスタントの声だった。
まるで首筋に刃物でも当てられてるような…。
周りが騒然とした。
原の隣にいる白人のおばさんが目を丸くして固まっている。
アナウンスも聞かず立ち上がる人も出てきて機内は収集がつかなくなってきた。
その時、前方から人が5人やってきた。
1人は怯えたアシスタント。
そのアシスタントの後ろに白人の大男が1人。拳銃を彼女の背中に付けているらしい。
そしてマシンガンを持った東洋系の男が2人。
彼等はアシスタントの前に出ると銃を構えた。
そして一番後ろから小太りの男が前に出てきて言った。
彼がリーダーらしい。
「乗客のみなさん、お騒がせしてすいません。でも安心して下さい、みなさんに危害を加えるつもりはありません。ただ大人しく座って下さればこちらからは何もいたしません」
脇の2人に目配せして言った。その目はソフトな言葉とは裏腹の鋭いものだった。
「ではよい旅を」
そう言い残すとコックピットのほうに歩いて行った。
乗客は突然の事体に動揺していた。
しかしハイジャック犯に逆らおうとするものは当然いなかった。
彼女を除いては…。
「大黒…生きていたのね…」

美容室「パアプウ」店長、秋元。
彼女は一番後ろの席でそっと拳を握った。


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