パアプウロード
第五章[願い(戦闘)]

その3 「機内にて…3」
老占い師ディーモンの教えを聞いた秋元は早速行動に移った。
パスポートを持っていなかった秋元はニューヨーク行きの船に乗り込ませてもらった。
そしてニューヨークの殺し屋仲間のデビットに偽パスポートを作ってもらった。
彼デビットとは殺しサミットで同じ部屋になってからの仲間である。
彼は偽パスポートと日本行きの航空券を用意してくれた。
そして…

(最後の決着か…、なるほどあのばあさん本物だわ)
乗っ取られた飛行機の最後部の座席で秋元はひとりつぶやいてみせた。
こんな非常時にもかかわらず久しぶりの戦闘になにか胸が高まるのだった。
そしてアジア系ハイジャック犯の2人のうち頬に傷のある方に向かっていった。
「すいませーん。おトイレ行かせて下さい」
男は用心深気に秋元の顔を見たがすぐにトイレまで連れていった。
それは秋元が今すぐにも漏れそうな情けなさそうな目をして男を見たからだ。
トイレから出ると秋元は鏡の前で髪をとかし始めた。
「早くしろ!」
男はイライラして秋元を越しに睨んだ。
そして鏡に移った秋元の目がトイレへ行く前の情けなそうな目とは明らかに違う事に気がついたが、もう遅かった。

「オ、お前…」
-スパッ-
耳を凝らさなければ聞こえないような風の音が鳴った。
秋元は首を切られ死んでいる男を素早くトイレの中に引きずり込んだ。
すぐに不審に思ったもう1人の男が近付いてきた。
「おい、ど、う、し、
-シュパッ-
た、…」
バタッ
次も一瞬だった。
首を切られた男は客席の方に仰向けに大きく倒れた。
「キャー!」
後ろの席にいた女性客が立ち上がり叫んだ。
そしてスチュワーデスを盾にしていた大男が慌てて駆け付けた。
それは秋元の計算通りだった。
(これでスッチーは助かったわ…)
しかし計算外のことがあった。
乗客の中に美容室「パアプウ」の同僚だった原の姿を見つけたからだ。
しきりに原は後ろの方を振り返り、何が起こったかを気にしている。
(ヤバい原さんにだけは見つからないようにしなきゃ…)
そう気にしながらも大男をいとも簡単に今度は額から盾に切り捨てた。
乗客は何がなんだか分からずに倒れこんでくるハイジャック犯を見ていた。

するとそこに下の様子など何も知らない大黒が意気揚々とコックピットから戻ってきた。
万事思いのまま、そのうすぎたない笑みを浮かべ勝ち誇った顔が一転した。
「な、なんだ?どうなってるんだ!」
大黒はすぐに客室の異変に気付くと銃を胸に構えようとした。
シューン!!
だがそれは最後部から秋元が投げたクシブーメランによってはじかれた。
大黒は叫んだ。
その顔は動転の余り蒼白で右目が飛び出そうなくらいだ。
「まさか?キング!お前か?」
秋元は焦った。
(今出ていったのでは原さんに見つかってしまうし)

トイレの前で決断を決めかねているとふいに最前列の3人が立ち上がった。
その男達はそれぞれ機内の天井につきそうなくらいの大男だった。
「あっ、ハンセンだ!!」
小学生らしき男の子が叫んだ。
そう、偶然にもそこに居合わせたのは全日本プロレスに参加する為に日本に向かっている、スタンハンセン、スティーブウイリアムス、ゲーリーオブライトの3選手だった。

武器の無い大黒はおもちゃ同然だった。
まずオブライトにダブルアームで5メートルくらい投げられ、ふらふらと起き上がる所にウイリアムスの猛タックルが襲う。
そして最後は…。
ハンセンが左手をぐるぐる回す。
ウイリアムスが大黒の左手を取ってハンセンの方に投げつけた…。

グワシィ!!
あまりに鈍い音が心地よく響いた。
大黒は空中を3回転半回って後頭部から落ちた。
首は横をむいたまま泡を吹き、白目を出している。
「ウィ〜ン!」
そしてハンセン中心に乗客全員でロングホーンをかかげ、勝利の雄叫びを上げた。
もちろん原と秋元も右腕を上げ、叫んでいた。

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